出張で訪れた横浜。
当時の私は、占いなんて信じていないタイプだった。
中華街をぶらぶら歩いていると、あちこちに並ぶ小さな占いブース。
「誰が入るんだろう?」なんて、少し冷ややかに見ていた。
そのとき、雨が降ってきた。
慌てて軒先に駆け込み、雨宿り。
そこも占いブースのひとつだった。
すると突然、中から70代くらいのおばあちゃんが声をかけてきた。
「あんた、占い信じてないでしょ?」
「まあね」
「雨が上がるまで、格安で占ってあげるから。手、出してごらんよ」
少し笑って、手を差し出す。
隣にいたおじいちゃん占い師も、興味深そうに覗き込んでくる。
「この手で?本当に堅い仕事してるの?」
おばあちゃんは手相を見ながら笑った。
「この手相、めちゃくちゃKYだよ。よく続いてるねぇ」
心当たりはある。だから、それほどショックでもなかった。
その後、何を改善したらいいかまでは覚えていないけれど、
彼女が72歳だったことはなぜか記憶に残っている。
「身寄りはいないけど、ここで若い人と話せるのが楽しい」
そう話すおばあちゃんの笑顔が、温かかった。
「やればいいよ、占い。向いてるよ」
冗談半分で「私もやろうかな」と言ったら、真顔でそう返してくれた。
根拠は、もう思い出せない。
そのあと、隣にいたおじいちゃんが私の運勢を四柱推命で見てくれた。
「悪くはないけど、よくもないね」
そう言いながら、老眼鏡をずらして命式を眺めていた姿が微笑ましかった。
「今の仕事が終わったら、占いやってみなよ」
静かな声でそう勧めてくれたのも、忘れられない。
その後は、肉まんの香りに誘われてまた中華街の通りへ。
あの日の雨。占いブース。偶然の出会い。
不思議と、今も心に残っている。
──信じていなかったはずの占い。
でも、あのときの会話は、今でも私のどこかを照らしている。
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